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金大生のための読書案内 ― 教員から学生へ


平成25年1月28日~7月7日中央図書館で展示されました
平成25年7月9日~11月8日医学系分館で展示されました

人は物語を生きる

天野良平先生(医薬保健研究域-保健学類)


 どんな本でもいい、先ずは「身近な」一冊を読むことだ。

 年を経て,本を読むことが益々楽しくなってきた。実は、小中高等学校の頃,国語が大の苦手科目で、教材の短い「話」(多くは有名な著作のごく一部)を読んで、「著者は何を言いたいのか」「それとは何をさすか」「文の構成は」など問われても,どれもよく分からなかった。漢字は憶えれば少しは何とかなったが、所詮、本を読まねば語彙も増えない。当時思っていた。「何で著者がそんなことまで考えたって言えるの。」「何でこんな難しい言い方するの。」と。とにかく教材の「話」が私には面白くなかった。凄く残念な思いである。
 しかし、大学に入った頃から少し様子が変わってきて、教養部(大学一、二年)の頃は文系科目も面白く、その日の講義で聞いた本を読んだりして結構充実していた。社会科学、人文科学の科目も多く履修した。試験やレポートも、「何々について述べよ」といった類の設問が多く、十分に楽しむ境地まで論ずることが出来た。この頃の体験が結構に役立っている。学生は一冊一冊をちゃんと初めから終わりまで読むことが大事だと思っている。学生時代の私のような学生もいると思いこの原稿を書くことにした。
 私の一冊は『トロッコ(芥川龍之介著)』である。冒頭を暗唱できる。多くの人は『土佐日記』『草枕』の冒頭は言えるだろうが、『トロッコ』はそれほどではないだろう。私には冒頭が身近であるということで忘れないで覚えている。何度も読んでいる。何らかの取っ掛かりがあれば、その人が本を読む動機となる。


 敢えて言う。「本に書いてある大抵のことを我々は経験する」と。

 最近、本当にそう思っている。以前は,本の中で起こっていることはほとんど別世界で自分とは全く関係のないことだ、本を読んで疑似体験して楽しむんだと思っていた。残念なことに、私には、「本の世界だけだったらそんなの知らんでもいいや。」と思ってしまうところがあった(勿論、ファンタジーや到底起り得ないようなフィクションの世界に魅せられ、それを本で楽しむ多くの人がいることも十分承知している)。ところが分かってきた。本の世界と思っていたことが身近な現実に起こっている、それ以上に劇的で面白い、可笑しい、悲しいことがあるということが。
 すると、本を読むのが楽しくなってきた。本の中の物語が身近なのだ。身近な人の人生が本の中の物語と共鳴することがある。人生が物語化されていくよう思うのだ。

 「日記」「自伝」「(私)小説」に、あなたが身近に感じられるような一冊があるかもしれない。

 『百代の過客(ドナルド・キーン著)』は最良の道案内となるかもしれない。
 「日記」には、それほど注目されていない人の日記であれ文豪の日記であれ、発露される作者の個性的な声に、突然に親近感を抱くような感動的な出会いがあり、読む者が、そこに自らの人生との一体感と納得感を得る、そんなことがあると思う。
 「自伝」「私小説」で同じ郷里(例えば金沢の)や同じ専門の著者のものを一冊選ぶのもいい。また同じ境遇や体験(洋行記など)の一冊もいいかもしれない。その中にはその人の人生があり、感動の物語がある。さらに物語の情景、時代と場所、人々の心理、その描写は見事で、読ませてくれる。読者が自らを投影しながら本を読むとき、本は人が物語をどう生ききるかのヒントを与えてくれると思う。
 最近、「聞き書き」活動として市井の人の話を聞く機会を持っている。誰にも物語はある。手にする本は「読める」物語となっている。「読める」「読みたい」ものの知恵も本の中にある。

1.蜘蛛の糸 ; 杜子春 ; トロッコ : 他十七篇 / 芥川竜之介作, 岩波書店 , 1990.8 (図開架 I913.6:A315)

 蜘蛛の糸:
地獄で苦しむ?陀多(カンダタ)のたった一度の善行に,釈迦が蜘蛛の糸をつかって地獄から極楽へ導こうとする。しかし,地獄の罪人達が同じように蜘蛛の糸にしがみつくのを見て,?陀多が「この糸は俺の物だ,降りろ!」と叫んだ瞬間に糸は切れる・・・。
 杜子春:
唐王朝の洛陽に杜子春(トシシュン)という若者がいた。遊び暮らし,散財をして乞食同然の杜子春に,仙人はお金を得る方法を教える。また散財をして身を滅ぼすうちに,杜子春はわが身のおろかさを悟り,仙人になるための修行をするが,声を出してはならぬ,という掟をやぶり,「・・・!」と叫んだ瞬間に現実に戻される・・・。
 トロッコ:
8歳の良平は,街と鉱山を結ぶトロッコにとても興味を持つ。ある日,鉱夫とトロッコを動かせることになり,夢中になってトロッコを楽しんだ。しかし,遠い鉱山に着かないまま「帰れ」と言われ,急に心細くなった良平は,暗くなっていく細い道を駆け抜け,必至の思いで家へ帰っていく・・・。


2.百代の過客 : 日記にみる日本人 / ドナルド・キーン [著] ; 金関寿夫訳, 講談社 , 2011.10-2012.4 (図開架 915:K26:1,2)

 日記は、記録というより一種の告白的行為である。だが、誰かがそれを読んでくれることを意識してつけられている。私は日記という最も私的なものの中に、生の「人生の物語」をどう生きるか?どう創っていくか?の声(叫び)が伝えられているような気がして、この本を手にした。平安時代から徳川時代、近代と二編に分けそれぞれ75、32の日本人の日記が紹介されている。その序に「日記は、日本文学を通じて流れる表現の一潮流を成している。そしてその他のどんな文学形式にもまして、日本人の思考と感情をよく伝えている・・」とある。日記の中にある作者の声が読む者と共鳴することがある、数百年の時をこえて親近感をもつ、これも楽しい。
 森鴎外『独逸日記』と夏目漱石『漱石日記』にみる両文豪の滞欧生活の様子は興味深い。鴎外がドイツへ行ったのは明治17年、23歳、漱石がイギリスへ行ったのは明治33年、34歳であった。洋行した年齢の違い、時期、国の違いはあろう、二人の性格の違いも大きいであろうが、滞欧日記の中の様子はかけ離れている。鴎外の日記はとにかく明るい楽しい内容に溢れており、漱石のほうは暗く気むずかしく楽しいものはないのである。両文豪の滞欧生活を比較しようという訳ではない。両文豪が異国の地で何を感じどんな振る舞いをしたかをみるのが、私には面白い、文学作品文体ではなく私的で個性的な感情の発露によるものの中に、両文豪の後の傑作を読むとき、そのときと同じ個性的な音色を感じる。石川啄木の『啄木日記』は文学作品である、書き起こし幾つかの日記として公刊されている。ローマ字で書かれた『ローマ字日記』を読んで、何故ローマ字で書いたのであろうと考えた。そんなことも楽しい。
 本編の幾つかにふれて作者の心の声に「時をこえた親近感」を感じてみたらどうだろうか。

3.モッキンポット師の後始末 / 井上ひさし著, 講談社 , 1974.6(図開架 913.6:I58)

4.絵のある自伝 / 安野光雅著, 文藝春秋 , 2011.11 (図開架 726.5:A615)

5.口語訳即興詩人 / 安野光雅著 ; アンデルセン原作 ; 森?外文語訳, 山川出版社 , 2010.11 (図開架 949.73:A615)

 突然であるが「国語の勉強法」というものがあるならば(この書き出しは国語の先生に叱られそうですが、なにせ小中高と国語の出来なかった僕だから許してほしい)、私の個人的な偏った考えかもしれないが、井上ひさしの作品を読むことを薦める。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと」(井上ひさし揮毫)、この言葉は、私が文章を書くときの基本となっており、何か難しいときこれが随分私を助けてくれている。井上ひさしの作品はとにかく情景がよく伝わってきて自分も主人公になったような気分に直ぐになれるような気がする。『モッキンポット師の後始末』は旧制高校での彼自身の自伝的話で可笑しい、近年の学生生活とは随分と違うが、今もやんちゃな学生をみると「当世学生気質は?」を思い、「大学におもしろい学生が居るのはいい、そんな学生が育てばいい」などと想い耽っている。これも本を読む楽しみである。劇作家であることも関係あるのだろうか、井上ひさしの作品は情景(場)が立体的に浮かぶ。
 同じように情景が目に浮かび明快な筆致の安野光雅氏の本もお薦めである。画家で絵本作家でもある氏の文章は正に「絵のよう」である。『絵のある自伝』には氏の描いた挿絵があり、それだけでも手に取る価値がある。氏の文に「・・・がある」と登場人物が書かれていることがある、それがまるで「キャンパスに描かれていく」感じをもつことがあった。書かれていくにしたがい絵のような美しい世界が描かれていく、そんな彼の筆致がいい、何かを読んでほしい。特にお薦めは三冊目にあげた「アンデルセン原作 即興詩人」である。私は、若い時から『即興詩人』を読破したいと思っていましたが、鴎外の文語文では、格調高く名調子なのは分かるが正直読みきれなかった。安野光雅氏が5年の歳月をかけた『口語訳 即興詩人』はとにかく読みやすい、あのイタリア都市の風景やそこに生きる人々の心の情景が絵になって目に浮かんでくる。これが楽しい。
 作家のもつ素晴らしい筆致にふれ、作品の世界に身をおいて楽しむのは至福の喜びであろう。


6.のり平のパーッといきましょう / 三木のり平著 ; 小田豊二聞き書き, 小学館 , 2002.7 (図開架772.1:M636)

7.どこかで誰かが見ていてくれる : 日本一の斬られ役福本清三福本清三著 : 小田豊二著, 集英社, 2003.12 (図開架778.21:F961)

8.手業に学べ / 塩野米松著, 筑摩書房 , 2011.5 (図開架 384.38:S556)

 ある日、学生が「先生、お年寄りや患者さんとのコミュニケーションの勉強のために、聞き書きの勉強したいやけど、作家の小田豊二先生呼んでください」と言って来ました。しばらくして鶴間キャンパスで聞き書き講座が3回開かれ、私も受講し、聞き書きの魅力にはまりました。「聞き書き」の手法で作られた4冊をここで紹介する。「聞き書き」は語り手(主人公)のそのままの言葉を紡いで本が作られる、聞き手(作家)は登場しない。その人の生き方や、育った環境、生きた時代が、その人の語りで鮮やかに描かれる。聞き書き本を読むと「その人と話している」ようである、その人の生き方に深く共感する。『のり平のパーッといきましょう』は、若い人は知らないかもしれないが大喜劇役者三木のり平の聞き書き、『どこかで誰かが見ていてくれる』は、斬られ役専門の「大部屋」役者福本清三の聞き書きによる一代記である。この二冊、抱腹絶倒、面白いエピソード満載。前者は、一世を風靡したが人気は去り人も寄り付かなくなった三木のり平の語りの遺言状(「死ぬまで本にしてはならぬ」と言い、死んでから本になった)であり、そこには彼の語る芸道がある。後者には、15歳の少年フクちゃんが撮影所に飛び込んで、台本もなく斬られ斬られ、本当に真面目に斬られ役を務めながら、映画界で認められるようになっていく姿が描かれる、笑いと涙がある。そのフクちゃんは最近トム・クルーズ主演「ラスト・サムライ」でハリウッドデビューした。自らを聞き書き作家という小田豊二氏は、「皆が寄り付かなくなって干された人」や「脇役で支えた人」に「道」がある、そういう人たちの話を聞きに行く、と。決して絶頂期のスターのところには行かない、と。小田豊二氏の本には人情噺が多い(小田豊二さんが怒っているかもしれない。ごめんなさい)。
 中央図書館の二階で、塩野米松氏の話を聞いたことがある。環境文学か何かの会で、氏は日本全国を訪ね歩いて聞いてきた話をしてくれた、「竹細工とその道具」の話を憶えている。日本列島各地で違いがある、素材が違い道具が違う、それが作られそこで使われ、技が磨かれる。仕事となっている。『手業に学べ』二分冊を手に取ってみてほしい、諸君が少しは知っている話がきっとあるはずだ。手仕事をしている人たちの聞き書き集である、常に真摯な話し手の姿があり言葉がある、心が打たれる。氏はあとがきで「たくさんの手仕事の方々に会ってきた。彼らは、自分らの話なぞ何の役にも立たないだろうと言いながら仕事について訥々と語ってくれた。そのなかには自然に対する考えがあり、人間に対する考察が潜んでいた。慌ただしい世の中の流れに対しての批判も含まれていた。物が溢れる社会、使い捨ての風潮に対する戒めもあった。それは自らの体を道具の一部に作り上げていくなかで、気づき、反芻しながらたどりついた考えのほんの一部であったろう。」と述べている。名の知れた人でないが、その物語に感動する。我々のごく身近にそんな人がいることも知る。だから、私も聞き書きをする、それは面白いこと?。
 「聞き書き」を通して「庶民の生きてきた歴史」を考えてみたらどうだろうか。

9.第2図書係補佐 / 又吉直樹[著], 幻冬舎 , 2011.11 (図開架 019:M425)

 お笑いコンビ、ピースの又吉直樹氏の「本を傍らにおきながらの自身を綴る」エッセイ集ですね。自分自身の過去を語りながら、その時読んだ本の話、影響を受けてきた本の話、直接には関係なさそうな「自分の話と本の話」が展開されていく、クスッと笑いながらマンガ(本当はマンガではありません)見るように読んだ。手に取ってみてください。ピースの又吉さんの読書量は凄いそうだ、その最初の本は芥川龍之介『トロッコ』だという、共通点を見つけて妙に嬉しかった。
 実は、「私が今書いているこの読書案内の原稿」、又吉さんの本のようなタッチで書こうとしました。でもとてもとてもそんな具合にはいきませんでした。やはり世に出る本は読ませる!

 





 

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