山本英輔先生(哲学者による随筆集)
哲学者による随筆集
山本英輔先生(人間社会学域 学校教育学類)
私の専門は哲学です。研究活動はもっぱら本を読むこととなります。哲学の本が面白いと思って、もう何十年そんな研究生活をしているのですが、しかし何十年たっても、哲学の本は難しいものだと感じます。哲学書を読むには、忍耐と修行がいるのです。とくに古典とされる本は、論理の構造を辿るだけでなく、一つ一つの言葉を、思想史的背景も理解しながら、綿密に理解しなくてはなりません。
こうした作業に疲れたとき、随筆のような文章を読むと気分転換になります。作家の随筆もいいですが、哲学者が書いたものにも、なかなか味わい深いものが沢山あります。そこで今回、哲学を専門としない学生の皆さんに向けて、哲学と哲学者なるものを知ってもらうのにいい随筆集を、10冊ほどピックアップしてみました。コンセプトは、普段授業では紹介しないもので、第1級の哲学者が書いた、しかし肩の凝らない、寝ながら(あるいは電車の中で)読める随筆集です(ただし、中には分厚いハードカバーのものもあって、寝ながら読むにはちょっと腕に力が要りますが…)。あと、いずれの哲学者も読書の達人で、読書論についての興味深い随筆もありますので、注目して読んでみて下さい。
ところで「随筆」と言えば、英語やフランス語の「エッセイ」に対応させられていますが、英語やフランス語の「エッセイ」は、元来「試み・試論」と訳されるもので、日本語の「随筆」でイメージされるものよりも硬質な散文が多いのです。モンテーニュやルソーの作品はあまりにも有名ですが、イギリスのジョン・ロックの『人間知性論』(An Essay concerning Human Understanding)なども「エッセイ」で、これなどはもう浩瀚な大論文です(ちなみに、西洋のエッセイの系譜と分析に関しては、P.グロード/J-F.ルエット『エッセイとは何か』下澤和義訳、法政大学出版局、2003年という本が参考になります)。
先ほどのコンセプトで選ぼうとすれば、どうしても西洋よりも近代日本の哲学者のものばかりになってしまいました。いろいろ要因はあるのでしょうが、『中央公論』や『改造』をはじめとする数々の雑誌や出版社が発行する小冊子の存在が大きいように思われます。日常生活の出来事や回想を題材にした小品を一般読者向けに書くように、出版社が哲学者に求めてきたのでしょうか。あるいは、これは江戸や中世に遡る文人の文化的伝統によるのだと言えるかもしれません。いずれにしても、大学での課業から少し離れて、これらの随筆集によって読書そのものを楽しんでほしいと思います。
1.ケーベル博士随筆集 / 久保勉訳編, 岩波書店 , 1957.11 (図開架 I138:K77)
2.西田幾多郎随筆集 / 西田幾多郎 [著] ; 上田閑照編, 岩波書店 , 1996.10 (図開架 I914.6:N724)
3.埋もれた日本 / 和辻哲郎著, 新潮社 , 1980.2 (図開架 121.6:W343)
4.九鬼周造随筆集 / [九鬼周造著] ; 菅野昭正編, 岩波書店 , 1991.9 (図開架 I914.6:K96)
5.読書と人生 / 三木清著, 新潮社 , 1974 (図開架 121.6:M636)
6.幸福論 / ラッセル [著] ; 安藤貞雄訳, 岩波書店 , 1991.3 (図開架 I133.5:A552)
7.思惟の経験から / [マルティン・ハイデッガー著] ; 東専一郎, 芝田豊彦, ハルトムート・ブフナー訳, 創文社 , 1994.7 (図開架 134.9:H465:13)
8.田中美知太郎全集 / 田中美知太郎著 ; 加来彰俊[ほか]編集 第8巻, 筑摩書房 , 1987-1990 (図開架 121.6:T161:8)
9.廣松渉哲学小品集 / 廣松渉[著] ; 小林昌人編, 岩波書店 , 1996.8 (図開架 104:H668)
10.自己と世界 / 渡邊二郎著 ; 高山守 [ほか] 編, 筑摩書房 , 2011.8 (図開架 121.6:W324:12)