シリアルからパラレル思考へ

 

小野口昌久先生(医薬保健研究域保健学系)

 

 日頃より私は学類生,大学院生に講義,演習や研究指導を通し,「学び方をしっかりと学んで下さい」と言い聞かせています。と言うのも,ここ数年,学生の実験レポートを見て思うことがあります。以前は,実験結果に対する考察には,参考文献として教科書や参考書(執筆者,書籍名,頁数,発行年月日など)を引用し記述していましたが,今ではインターネットのURLの記載をよく目にします。記述もそのまま「コピペ」するケースも多く見受けられます。

 

 確かに,私たちはインターネットに容易にアクセスできる環境にどっぷりつかっています。そこでは単純な課題,解決については,答え探しが大きな努力も必要としないで,検索という形で容易に「コピペ」できます。言い換えると,私たちは安易な答え探しが可能な世の中に生きていると云えます。

 

 では,答え探しが容易にできない課題に直面した場合,さてどうすればいいでしょうか。その時には私たちは自分の頭で考えるしかありません。私は,課題を前に,頭の中にこれまで蓄積してきた知識や経験を組み替えることこそが,「考えることの本質」ではないかと思っています。インターネットのようにシリアルにひとつずつ情報が出てきて,ある特定の知識を得たいときには非常に便利なツールですので,「コピペ」は否定しません。けれども,講義や研究を通して色々なことを体験し,経験し,知識を蓄え,それを柔軟に組み合わせ,組み替える,すなわちパラレル思考を持って新しいものを創造するという訓練がとても大切で,学生には講義や研究を通し「学び方・考え方を学んでいってもらいたい」と思っています。

 

 何冊か本を紹介します。いろいろと考えを巡らせては如何でしょうか。

 

1.『ベンチの足 : 考えの整頓』 / 佐藤雅彦著, 暮しの手帖社, 2021.3, (中央図開架914.6:S253)  ▼推薦文を読む

改修工事の行われている公園で背の高いベンチを発見し,三つの脚の下にボルトで固定されたコンクリートの固まりがあることを発見します。普段は土の中に埋まっているコンクリート部分から,ベンチを支えるための仕組みに思いを馳せます。想像の埒外(らちがい)の事実に気づくことで,自分と社会の新たな視点で見つめ直すことができます。


2.『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら不便をとり入れてみてはどうですか?: 不便益という発想』 / 川上浩司著, インプレス, 2017.3, (中央図開架501.8:K22)  
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車の鍵はリモコン方式が普及していますが,スイッチを押してハザードランプが光ったとしても,閉まっていない可能性があります。一方,鍵を挿してねじるアナログな手法は,鍵がロックされたという手応え,つまり安心感という益を得られます。ここでは,身近な物事を例に,不便益の効用を説いています。


3.『はみだしの人類学 : ともに生きる方法』 / 松村圭一郎著, NHK出版, 2020.3, (中央図開架389:M434)  
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「はみだし」と「つながり」をキーワードに,ほかの文化を知って「じぶん」を相対化し,自己像を作り上げようとする思考法が掲示されています。相手を知ることで,自分自身への理解を深めることにも繋がります。


4.『ミニマル料理 : 最小限の材料で最大のおいしさを手に入れる現代のレシピ85』 / 稲田俊輔著, 柴田書店, 2023.2, (中央図開架596:I35)  
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 スパイスカレーの人気店「エリックサウス」総料理長を務める著者が「最小限の要素で最大のおいしさを手に入れる」ミニマルレシピをロジカルに紹介しています。誰が調理しても美味しくなる再現性も担保しています。最小限のプランとロジックを携え,順序立てて改善していく「道筋」を学べるのではと思います。

 

 

 

 

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