野村眞理教授(民族について考える)
平成21年2月6日~5月7日 中央図書館で展示されました
民族について考える
野村眞理教授(人間社会学域-経済学類)
「ドミノ倒し」なら知っていても,「ドミノ理論」という言葉など,聞いたこともない人が多いのではないだろうか。
ドミノ理論とは,一国が共産主義化するとドミノ倒しのごとく近隣諸国が次々に共産主義化されるという,第二次世界大戦後のアメリカで唱えられた共産主義国拡大に対する脅威論である。実際アメリカは,この理論に基づき,ヴェトナム戦争(1965―1973)に介入した。しかし,1990年代の東ヨーロッパおよび旧ソ連の体制転換後,「共産主義か自由主義か」といったイデオロギーの対立は,もはやアナクロニズムとなり,かわって世界の紛争の多くは,「民族」の大儀を振りかざして戦われるようになった。
なぜ,民族は,階級や性や年齢の差違を超越して人々の心情をひとつにまとめるほどの力を持つのだろうか。なぜ,人は,特定の民族に帰属しようとし,それで安心するのだろうか。いったい,人々にとって民族とは何なのだろう。
民族をテーマとする本は数多く出版されているが,民族一般について理論的に書かれた本は,総じて読みやすくはない。民族問題に対する関心を深めたい人は,むしろ,個別事例をていねいに検証した本を数冊読むことから始めた方がよい。そこで,これまで私が読んだ本のなかから数点を選んでみた。なお,私が専門とする地域がヨーロッパであるため,本の選択に地域的な偏りがあることをお許しいただきたい。
1. 「民族」 / 大津留厚他著 (ミネルヴァ書房) 2003年 (図開架 230.6:K51:10 )
2. 「ボスニア内戦」 / 佐原徹哉著 (有志舎) 2008年 (図開架 239.34:S131 )
この本と合わせて,ボスニア・ヘルツェゴヴィナの歴史について学びたい人には,たとえば『ボスニア・ヘルツェゴヴィナ史』(ロバート・J・ドーニャ,ジョン・V・A・ファイン著,佐原徹哉他訳,恒文社 1995年)がある。
※「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ史」(図留学生 239.34:D683 )
3. 「ガリツィアのユダヤ人」 / 野村真理著 (人文書院) 2008年 (図開架 238.6:N811 )
ポーランドやウクライナのユダヤ人の歴史について,お手軽には『民族』(大津留厚他著,ミネルヴァ書房 2003年)の第1章を読むのもよい。
4. 「不思議の国ベラルーシ」 / 服部倫卓著(岩波書店) 2004年 (図開架 302.385:H366 )
5. 「歴史の狭間のベラルーシ」 / 服部倫卓著(東洋書店) 2004年 (図開架 238.5:H365 )
『歴史の狭間のベラルーシ』は,ブックレットながら,日本では数少ないベラルーシの通史として貴重な1冊である。
6. 「増補 想像の共同体」 / ベネディクト・アンダーソン著(白石さや,白石隆訳) NTT出版
1997年 (図開架 311.3:A545 )
7. 「単一民族神話の起源」 / 小熊英二著(新曜社) 1995年 (図開架 210.04:O35 )
8. 「アッラーのヨーロッパ」 / 内藤正典著(東京大学出版会) 1996年 (図開架 316.828:N159 )
9. 「ヨーロッパとイスラーム」 / 内藤正典著(岩波新書) 2004年 (図開架 S316.83:N159 )
10. 「移民国としてのドイツ」 / 近藤潤三著(木鐸社) 2007年 (図開架 334.434:K82 )