大友信秀 教授(自分をブランディングしてみませんか?)

平成23年6月13日~12月4日中央図書館で展示されました

自分をブランディングしてみませんか?

大友信秀 教授 (人間社会学域-法学類)

学生のための読書案内という企画でお奨めの本をリストアップするように依頼され、いろんなことを考えてみました。まず、大学生に奨めるべき本ってどんなものだろう?自分は大学生のときに、あるいはそれまでに、あるいはその後に、どんな本を読んできたんだろう?もう一度大学生に戻れるとしたら、自分は、どんな本を真っ先に読むんだろう?自分が大学生なら、教員にどんな本を奨めてもらうことがうれしいんだろう?

自分ですべきでないこと、したくないことも考えてみました。私は法学部(今では法学類というよくわからない名称の所属に移行しつつありますが…)の教員です。私が法学者や法学関係の本を紹介するというのはあまりにも芸がないし、もし、そんなことをするということになると、法学部以外の学生に法学の本を奨めるための、そうとう積極的な理由を考え出さなければいけなくなってしまいます。そもそも大学で授業をしていると、専門的な勉強の前に、もっと大切なことを学ぶべき学生が大勢いて、そういった学生が自分の置かれている状況に気づいていない姿を見て歯がゆい(もっとわかりやすく言うと、「痛い」状態にいる学生を見るのがつらい)思いをしている自分がいることに気づきます。

では、専門的な勉強の前にすべきことって何だろう?最近の学生のみなさんを見ていると、自分が大学生だったころとほとんど変わっていないことに気づきます。どういうことかというと、大学に入って何をするのか、大学を出て何をするのか、ということに対する意識がとっても薄い。というより、ない。だから、大学では、漫然と授業に出席するだけで、授業の内容は教員任せ。教員はというと、自分が学生だったときからほとんど進歩なく、同じような手法で同じような内容を講義している。

じゃあ、悪いのは誰なんでしょうか?何も考えてない学生なんでしょうか?何も新しい手を打たない教員(というより、それを放置している大学?)なのでしょうか?

おそらく、一番の問題は、世の中にはたくさんの学びの場、学びの手段があるのに、まじめな人ほど、常識的にみんなが従う場や方法に縛られてしまっているところにあるんじゃないでしょうか?つまり、大学に入って、入った後は授業に出る。そうすると、社会に出るために必要なことが学べる。だから、それ以外のことには関心を持たなくて良い(世の中がそんなに単純なら、すべての人が成功してますよね?)。

私が学生だったときよりも、今ではコンピュータ関係機器が発達し、インターネットというとんでもない情報インフラが出現し、ポケットに入るような機械で世界中から情報を取得することができるようになりました。でも、どんなことでもそうですが、物は使い方を知らなければ活かすことができません。

ところで、私は法学がそもそもの専門ですが、最近では、ブランディングを指導するコンサルタントとしての仕事もしています。ブランディングは、簡単に言うと、自分の強みを理解・把握して、それを最も活かせるマーケットにつなげることで新しいビジネスを作る、というテクニックです。コンサルタントをしていると、当たり前ですが、社会で生きていくために必要なことに嫌でも気づかされます。世の中で成功するためには大学を出ることは必ずしも必要ない、というよりも、大学で学んだことが社会に出た後の成功にはほとんどつながってない、ということに気づかされました。

そこで今回は、学生のみなさんに、大学にいるだけではなかなか気づかない、そういうことに気づくきっかけになる本をいくつか紹介しようと思います。実戦で役立つ本から、ジワジワと自分の物の考え方を変えるようなものまで幅広く見繕ったつもりです。ふだんあまり本を読まないという方にも関心を持っていただけるように、漫画も一つ選んでみましたので、手にとってみてください。

1.ビル・ゲイツの面接試験 / ウィリアム・パウンドストーン著, 青土社, 2003 (図開架 336.42:P876)

 大学生の多くは、就職活動を経験し、各企業による面接を受けることになります。一般的な企業は、決められた数の新入社員を確保するため、必ずしも完全な人間ではなくとも、場合によっては、その場の一瞬のパフォーマンスや採用者の勘で決めてしまうこともあります。マイクロソフトは、真に欲しい人材以外は採用しないという信念で常人にはクリアできない課題を採用予定者に与え、それを超えたごく一部の人材を確保しているそうです。本書では、そのような一般人尽な内容に見える課題の裏にマイクロソフトのどのような戦略が隠されているのかが垣間見ることができます。
 本書の内容が真実であるかはともかく、このような事態を擬似的に体験することで、物事を様々な面から見ることの重要性に気付くと思います。

2.まず、ルールを破れ / マーカス・バッキンガム&カート・コフマン著, 日本経済新聞社 , 2000.10 (図開架 336.4:B923)

 本書の著者は、はじめに、こんなことを言っています。「世界中の最も優秀と評価されているマネジャーの間に共通点はほとんど見当たらない。性別、人種、年齢など、どれをとっても千差万別だ。実際の行動スタイルも違えば目標も異なっている。しかし、こうした違いはあってもただ一つ、並はずれて優秀なマネジャーには共通点がある。それは、新しく何かを始めようとするときに、まず、伝統的常識であるはずのルールをことごとく打ち破っているということだ。」
 このことは、現状のルールを破れば成功するということを意味しているのではありません。優れたマネジャーは、達成するべき目的のためには、ありとあらゆることを試す。つまり、みんなが絶対的なルールと思っているものですら、その目的のために必要なければ打ち破る、ということです。
 みなさんは、それぐらいの思い出達成しようと思う目的・目標を持って生きていますか?

3.20歳のときに知っておきたかったこと/ティナ・シーリグ著, 阪急コミュニケーションズ , 2010.3, (図開架 159:S452, 図北陸銀行文庫 H159:S452)

 現在、NHKで「スタンフォード白熱教室」としてその講義が放映されているので、本書の著者を知っている方も多いのではないでしょうか。
 著者が「常識を疑い、身の回りのルールが本当に正しいのか再検証してもいいのだと、みなさんの背中を押したいと思います。」と述べているとおり、この本も上記の2冊の本と同様、常識、あるいはルールというものを疑います。こんなに素晴らしい授業を受けられるスタンフォード大学って素晴らしい、金沢大学にも、こんな授業ないのかな、と思ったら、自分で探してみてください。

4.伸びる30代は、20代の頃より叱られる/ 千田琢哉著, きこ書房 , 2010.9 (図開架 159.4:S474)

私は20代の終わりから3年間東京の研究所で働いていた経験があります。当時年間5000万円(後に1億円に増加した)のプロジェクトを実質1人で担当していました。国の予算で動いていたため、中身よりも予算を使い切ることが至上命題のようになりかける周囲とよくぶつかりました。そんなとき、自分のキャリア形成、自己の能力アップ、仕事を任された者としての責任感(プロフェッショナル意識)というものから、自分に課したことがたくさんありました。
本書は最近の本ですが、当時私が考えていたことの多くと重なります。周囲に流されるのではなく、自分を成長させるためのヒントがあると思い、みなさんにも紹介することにしました。

5.プロフェッショナルプレゼン。 / 小沢正光著, インプレスジャパン,インプレスコミュニケーションズ (発売) , 2008.9 (図開架 336.4:O99)

 大学に入ると授業を受け身で聞くだけでなく、自分で発表するという機会も増えます。慣れないうちは、単に調べてきた情報を読み上げるということにもなりかねません。本書は、博報堂という著名な広告代理店で多くの有名企業の広告宣伝を手掛けてきた著者が、クライアントへのプレゼンテーションのノウハウを明らかにしたもので、学生の皆さんにも多くのことを気づかせてくれます。
 本書は、プレゼンテーションに関する本ということだけでなく、真のプロフェッショナルとはどのような考え方をしているのか、どのような人のことを言うのか、ということを教えてくれるという意味でも、学生のみなさんが目標とすべきもに気付かせてくれるヒント満載です。
 ちなみに、私は職業柄、ブランディングやマーケティングに関するコンサルタント(と名乗る方々)が書いた本を読む機会は多いのですが、ほとんどは読むに値しないものです。本書はそのような本が氾濫する中で光を放つ稀有なものでもあります。

6.奇跡力 / 井上裕之著, フォレスト出版 , 2010.10 (図開架 159:I58)

 本書の著者は、世の中で奇跡と呼ばれることを起こした人々を分析し、そこに共通する点を3つあげています。
 1つは、「自分を強く信じて疑わない心を持っている」こと。
 2つめは、「成し遂げたいことを明確にしている」こと。
 3つめは、「夢や目標を達成するために、戦術を考え、実行に移し、それを積み重ねている」こと。
 私も普段から学生に、「①自分で考え、②それを行動に移すこと、③行動に移すために、自分の考えを具体化すること」を教えています。自分で考え、それを行動に移すということを実現するためには、自分を信じる気持が強くなければなりません。本書により、そんな気持ちが身に着くことを期待しています。

7.バカな職場 / 渋谷昌三ほか著, プレジデント社 , 2005.10 (図開架 336.04:S555)

 みなさんは、自分で何かを成し遂げたことはあるでしょう。でも、たくさんの仲間と何かを成し遂げたことはありますか?たくさんの仲間と成し遂げるためには、1人で物事をなしとげるのとは違う知恵が必要になります。なぜ、みなさんのいる金沢大学は必ずしもみなさんの予想する理想の大学になり得ていないのでしょうか?
 いわゆる「使えない人」でも同じ組織にいる以上使わないと無駄になります。そのような場合には、どのような対応が必要なのでしょうか。組織を効率的に動かす、他人を動かすということを早めに考えておくことも必要だと思い、この本をお薦めします。

8.さるでも使える会議の本 / 吉本精樹著, アスカ・エフ・プロダクツ,明日香出版社 (発売) , 2006.1 (図開架 809.6:Y65)

 成功している会社というのは、会議の時間をできるだけ少なくしているものです。会議は物事を決めるために開くものですが、往々にして、会議で発言することを目的とする方々が出現します。会議はコストがかかるものです。学生のみなさんでも1時間バイトをすれば800円や900円にはなるのではないでしょうか。10人で会議すれば、9000円のコストがかかっていると考えられます。大学の教授による会議のコストが1回あたりいくらか、考えている人はどれぐらいいるのでしょうか?学長や理事の出席している会議のコストは考えるだけでもぞっとしますね。
 会議のパフォーマンスに無関心な大学という場所で、せめて学生のみなさんには、そのばかばかしさに気づいていただきたいという思いから、この本を推薦することにしました。かしこいみなさんなら、私の真意はわかりますよね(笑)?

9.「ケンカ」のすすめ / 落合信彦著, ザ・マサダ , 2000.3 (図開架 914.6:O16)

 みなさんは、ケンカをしないのは良いことだと教えられてきませんでしたか?本書もまた、そういった常識を覆すことを推奨するものです。世界レベルで物事に挑戦しようとするときに、どれぐらいの気持ちと行動が必要なのかを説いた本です。なるほど、と思うか、なんて極端な本なんだろう、と思うかでみなさんの可能性が決まるかもしれませんね。
 ちなみに、この本の著者は、ロバート・ケネディ上院議員(元アメリカ合衆国大統領候補、選挙戦中に暗殺され死去)の友人としてアメリカ政界をつぶさに見、また、冷戦中の世界を訪問し、現実の社会と政治の関係をリアルに体感し、その経験をいくつもの書籍に著してきました。

10.お金でなく、人のご縁ででっかく生きろ! / 中村文昭原作 ; ユウダイ作画, サンマーク出版 , 2009.11 (図開架 726.1:N163)

 こざかしい知恵や常識的な言い訳なんかどうでも良い。そんなことにこだわっている暇があったら行動しろ。そこからしか新しいものは生まれない、成功は生まれない、ということを説いた本です。
 大学というところは、このような生き方とは真逆に、行動する前にちゃんと考えましょう、考えて完全な答えが出なければ、とりあえず行動せずに様子をみましょう、というところではないでしょうか。みなさんはどちらの生き方を選びますか?

11.キリスト教は邪教です! / F・W・ニーチェ [著], 講談社 , 2005.4 (図開架 134.9:N677)

 弱い者を助けよ、とするキリスト教の博愛精神は正しい、とみなさんも思っていませんか?自然界では、弱い者は強い者に食べられ、滅ぶのが運命です。これを変えようとするのは人間のエゴです。しかし、人間どうしとなると、これは通用しません。仏教では自然に生きること、自然界の摂理を受け入れることが正しいこととして認識され、ヨーロッパの考え方、キリスト教の考え方とは異なります。しかし、ヨーロッパの影響を強く受けた現在の日本では、仏教的な考え方よりもキリスト教的な考え方が強く影響を与えている場面も増えているのではないでしょうか。
 宗教がヨーロッパに平和をもたらすことを期待し、これに裏切られたニーチェが、なぜ宗教が平和をもたらさないのか、という命題に真剣に挑戦し、結果としてキリスト教自体が間違っていた、という結論に至ったというのがこの本の核心です。
 今読めば、なるほど、そんな風にも言えるな、という感想を持ちがちですが、当時のヨーロッパでここまでのキリスト教批判をする勇気というものは想像できません。この新訳は古典と思われがちなニーチェを現代にリアルに伝えることに成功しているので、みなさんにも一度手にとってもらいたいと思います。

12.一瞬で自分を変える法 / アンソニー・ロビンズ著, 三笠書房 , 2006.11 (図北陸銀行文庫 H159:R632)

 「口先だけでなく、実践できる人になってほしい。」と筆者が述べるとおり、この本も、前向きな考え方を持つことが成功につながるということを説くものです。知識をつけることが成功を導くのではなく、自分の考え方を変えることが成功を導くということに気づかされる本です。 大学での勉強も、単に知識をつけるだけでは、どうしようもないのですが…。

13.君たちはどう生きるか / 吉野源三郎著, 岩波書店 , 1982.11 (図開架 I159.5:Y65)

 考えるということはどのようなことなのか、すなわち、哲学というものはどういうものなのか、を主人公のコペル君と叔父さんとの会話でぐいぐいと読者を引き込みながら進める。本書は、昭和12年という、これから戦争に突入し、取り返しのつかない時代に入ろうとしているころに書かれたものとは思えない、自由なものの考え方に満ちあふれている。
 本書の古びることのない内容とこれが書かれた実際の時代性に思いをめぐらしてみてほしいと思います。本書であきたらない方は、デカルトの『方法序説』をお奨めします。同書は、ガリレオ・ガリレイが宗教審問により地動説を放棄させられたことを目の当たりにし、科学的な行動が宗教により邪魔されないために必要な周到な知恵を整理したものです。
 このような自由な学問が許されない時代にそれに立ち向かった先達を思えば、現代がいかに恵まれた時代かがわかり、勉強しないなんて罰が当たるとは思えませんか?

14.社員力革命 / 綱島邦夫著, 日本経済新聞社 , 2006.9 (図開架 336.4:T882)

 リーダーシップの本質に触れた本です。10人のリーダーと100人のリーダーでは、その役割が異なる。10人ぐらいであれば直接目が行き届くが、100人ではどうでしょうか?では、1000人のリーダーになったら?
 リーダーは、率いるチームの規模によりその役割が大きく異なります。その役割の違いに対応し、その要求される能力も異なります。金沢大学は教職員、学生を含めると10000人を超える組織です。そのリーダーである学長は10000人という集団のリーダーとしての能力を備えなければならず、それは、せいぜい数十人程度でしかない学部長の経験で対応可能なものではありません。
 現在、未曾有の震災への対応で批判を浴びている我が国の首相は1億2000万人のリーダーです。そのリーダーシップというものは、どのようにすれば身につけられるのでしょうか。このことに我が国の首相は気がついて、自らの能力を謙虚に把握しているのでしょうか。
 せめて、このような重責を担う方々には、本書をよんでいただきたいと思います。みなさんも将来とっても偉くなるかもしれませんから、今のうちに読んでおかれてはいかがでしょうか?