遠藤徳孝先生(人間を理解する人間の試み)

 

人間を理解する人間の試み        

           遠藤徳孝先生(理工学域-自然システム学類)

 金大生におすすめの本ということで原稿を頼まれましたが,今どきの学生に言いたいことは,暇さえあれば手当たり次第に本を読みなさい,ということですね。とはいえ,私も最近,以前ほど本を読んでいません。読む時間がないです。でも,時代のせいじゃなく,今でも学生は本を読む時間はあるでしょう。

 日頃,人間というものに対する理解を科学的に論じた書籍を手にすることが多いです。全てを鵜呑みすることなく疑いの目を持ち,正しいと思うことも変に拡大解釈することなく,自分なりに解釈しながら読むのがよいです。

 

 

 紹介した内容はほんの一部です。是非,実際に手に取って読んでみてください。また,紹介したもの以外の面白い本と出会うヒントとなれば幸いです。

   1. 美を脳から考える : 芸術への生物学的探検/インゴ・レンチュラー, 
               バーバラ・ヘルツバーガー
,デイヴィッド・エプスタイン編 ; 
               野口薫, 苧阪直行監訳, 新曜社, 2000.6  (中央図開架701.1:B576)
 私はモダンアートが好きです。アートは美だけを追求しているのでありませんが,美を重んじる姿勢は基本です。美とは一体何でしょうか?教えられないのにおよそ共通認識が存在しているように思われます。こうした疑問に対して科学的にアプローチしたのが「美を脳から考える」です。芸術について脳科学,文化人類学,認知科学的な考察がされています。
   2.なぜ美人ばかりが得をするのか/ナンシー・エトコフ著  ; 木村博江訳/草思社, 
               2000.12  (中央図書庫 140:E83)
 芸術でなくとも,服や工業製品のデザインに関心がある人は多いはず。見た目の良さは何が決めるのか?もっと卑近な例としては,美人。美人は何故美人なのか。「なぜ美人ばかりが得をするのか」では,各人がこれまでの人生で見た人間の顔の平均値が美人の原型となるとしています。個体の美(魅力)は,繁殖力に関係したバランスのいい健康の指標のようです。時代とともに多くの人(人種)の顔を見る機会が増えるにつれ美人とされる顔も緩やかに変化しているようです。                      
   3.銃・病原菌・鉄 : 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎/ジャレド・ダイアモンド著 ; 
              倉骨彰訳/ 草思社, 2000.10 上巻 (中央図開架 204:D537:1) 下巻
          (中央図開架 204:D537:1)
 クジャクのメスは,羽の目玉模様がよく目立つオスを選ぶ傾向があり独特の美的感覚を持ちますが,これも種の保存に関する生物学的戦略が関係しています。動物の進化戦略と比較し人間の行動を理解しようとする学問が進化心理学です。ピュリッツァー賞受賞作「銃,病原菌,鉄」の著者ジャレド・ダイアモンドも進化心理学者と呼ばれることがあります。                                            
   4.解明される宗教 : 進化論的アプローチ/ダニエル・C.デネット著 ; 阿部文彦訳, 
               青土社, 2010.9  (中央図開架 160:D399)
 進化心理学に関連した本は多く,その一つ「解明される宗教 進化論的アプローチ」では,宗教の起源から,科学が発展した現代でも宗教が存続する理由まで,宗教について進化論の立場から論じています。                            
   5.利己的な遺伝子. 増補新装版/リチャード・ドーキンス [著] ; 日高敏隆 [ほか] 訳/
              紀伊國屋書店, 2006.5 (中央図開架 467.2:D271)
 宗教には,どこか自己犠牲的なものを良しとするイメージがあります。しかし,美しき(?)自己犠牲は人間特有のものではありません。女王アリのために生涯をささげる働きアリだけでなく,哺乳動物の中に自己犠牲的(利他的)な行動をとる種があります。これを,個体という乗り物に乗った遺伝子同士の生存競争であると喝破し,遺伝子は形質や行動のプログラムであるところの“情報”にすぎず,DNAという媒体に限らないとしたのがリチャード・ドーキンスです。「利己的な遺伝子」では,“思想”は個体(人の脳)を乗り物にした遺伝子(ミーム)であり,異なる思想同士が生存競争繰り広げているという世界観を打ち出し,哲学的なインパクトを与えました。これは,人が宗教を信じる理由の考察とも関係が深いです。
   6.滅びゆく思考力 : 子どもたちの脳が変わる/ジェーン・ハーリー著 ; 西村辨作,
             新美明夫編訳,  大修館書店,1996.2 (中央図開架 371.45:H434)
 動物との比較において,最も人間らしい点は言語を持つことでしょう。言語はコミュニケーションの道具のみならず,思考の道具としての機能を持ちます。それゆえ,子供のうちから長い時間をかけて母国語をきちんと学ぶことは重要です。しかし,テクノロジーに囲まれた現代社会は,子供の言語力獲得にいいことばかりではありません。「滅びゆく思考力」では,スマホが存在する前からこのことに警鐘を鳴らしていました。以前は自然に(無意識に)行われていた訓練が社会の変化によってなされなくなることに大人はいち早く気付く必要があります。
   7.男の子の脳,女の子の脳 : こんなにちがう見え方,聞こえ方,学び方/レナード・
              サックス著
 ;  谷川漣訳, 草思社, 2006.5 (中央図開架 371.4:S272)
 戦後日本では教育の場でも男女平等が当たり前になりました。これも社会の変化が脳の成長になんらかの影響を与えた例となるかもしれません。アメリカでは男女の脳の違いに応じて教育法を変えることが実践されていて,「男の子の脳,女の子の脳」ではその必要性を主張しています。動物の場合,同じ種のオスとメスでは進化の過程における戦略が違っているのが普通です。人間についても,個人差が大きいものの,脳科学的に男女差があるのは間違いないです。

     8.Googleがほしがるスマート脳のつくり方 : ニューエコノミーを生き抜くために 
        知っておきたい入社試
験の回答のコツ/ウィリアム・パウンドストーン著 ; 
        桃井緑美子訳, 青土社, 2012.8  (中央図開架 336.42:P876)

 言語は思考の道具だと書きましたが,特に論理的思考に不可欠です。ところで,論理とは何でしょう?最も重要なことは,必然的に結果が導かれるということ。それ故,客観的であり,合理的であり,予想可能でもある。「Googleがほしがるスマート脳のつくり方」では,Googleの入社試験の例題が多数紹介されていますが,数学や物理学的な論理思考力を問うものが多いです。論理とは,考え方が正しければ誰がやっても同じ結果が出るものですから,Googleの社風である革新を生む能力とは無縁に思えますが,人間の脳内で創造力は知能とはっきり区別されておらず特別なものではないという最近の科学的研究成果を踏まえてのことらしいです。
   9.どうしてあの人はクリエイティブなのか? : 創造性と革新性のある未来を手に入れる
                ための本/
 デビッド・バーカス著 ; プレシ南日子, 高崎拓哉訳,  
               ビー・エヌ・エヌ新社, 2014.10   (中央図開架 141.5:B959)
 現実には誰もが高い創造力を持っているようには見えない。では,どうやったら創造性が発揮されるのか?「どうしてあの人はクリエイティブなのか?」には,決して「頑張って物事をよく考えなさい」的な精神論ではなく,さまざまな心理学的実験結果とともにそのヒントが載っています。例えば,難しいパズルの解法は,目の前にヒントがあってもほとんどの人は気づかないが,一旦パズルとは全く別の作業をした後だとヒントに気づく人が多い,など。