新書を入口に(金大生のための読書案内 第34回)

 

和田一哉先生(人間社会研究域経済学経営学系)

 

 私の専門は主に発展途上にある国々の社会経済を分析対象とする開発経済学ですが,視野を広げることを目的として新書を読むことがあります。新書は価格的にも分量的にも手軽ですが,ものによっては内容が非常に濃いものが多いように思います。自分が学生の頃,新書で興味関心を深め,さらに専門性の高い学術書を購入し勉強するということが割にあったように記憶しています。古くても良い本はいつの時代でも良い本であり,その価値は変わらないというのが持論です。

 

 

1.『哲学入門. 改版 (岩波新書)』 / 三木清著, 岩波書店, 1951.5, (中央図文庫・新書S101:M636)  ▼推薦文を読む

 三木清先生による本。大学生になったらまずは読んでおきたい。

 

2.『公害の政治学 (三省堂新書)』 / 宇井純著, 三省堂, 1968.7, (自然図自動化書庫519.5:U33)  ▼推薦文を読む

 水俣病問題に取り組んだ宇井純先生による本。宇井先生は工学が専門でありながらタイトルの通り政治の重要性に目を向ける。というより「公害」の特徴ゆえにそうなるのは必然であったと言えよう。宇井先生の文章からは当時の鬼気迫る空気が伝わってくる。2011年の震災の際の原発事故とその後の状況を見ると,水俣病が発生した時代から日本社会が抱える問題は根深く,今なお変わっていないことを改めて思い知らされる。社会はどうあるべきか,人はいかに生きるべきかを考えさせられる一作。

 

3.『水俣病 (岩波新書)』 / 原田正純著, 岩波書店, 1972.11, (中央図文庫・新書S493.15:H254)  ▼推薦文を読む

 原田正純先生による本。水俣病の原因究明の過程,そして水俣病によって生じたさまざまな社会問題について記したものである。上記宇井先生の本同様,客観的でありながらその記述には鬼気迫るものがある。原田先生は医学者として胎児性水俣病の究明に大きく貢献したが,同時に社会の在り方に対する痛烈な疑問を投げかける。その意義は今なお色褪せることはない。(なお新書ではないが,石牟礼道子著『苦海浄土』(講談社文庫)も併せて読みたい。)

 

4.『自動車の社会的費用 (岩波新書)』 / 宇沢弘文著, 岩波書店, 1974.6, (中央図文庫・新書S685.1:U99)  ▼推薦文を読む

 宇沢弘文先生による本。高度経済成長とともに町を走る自動車台数は急増したが,同時に生じた排ガス問題や交通事故の増加など当時の社会的歪みに焦点を当てた本である。ミクロ経済学を専門とする宇沢先生の研究は緻密な数理モデルによる分析が持ち味だが,社会で生じている問題が常に念頭にあったことがわかる。まさに経済学は人々を幸福にするための学問であることを改めて思い起こさせる。

 

5.『原発のコスト (岩波新書)』 / 大島堅一著, 岩波書店, 2011.12, (中央図文庫・新書S539.091:O82)  ▼推薦文を読む

 大島堅一先生による本。コスト面で原発がいかに割に合わない発電設備かを本書は分かりやすく説明してくれる。上にも書いたが,水俣病が発生した時代から日本社会がある意味何も変わっていないことを思い知らされる。

 

6.『原発はいらない(幻冬舎ルネッサンス新書)』 / 小出裕章著, 幻冬舎ルネッサンス, 2011.7, (中央図文庫・新書543.5:K79)  ▼推薦文を読む

 小出裕章先生による本。上記大島先生の本と併せて読みたい。

 

7.『経済学に何ができるか(中公新書)』 / 猪木武徳著, 中央公論新社, 2012.10, (中央図文庫・新書Ch331:I58)  ▼推薦文を読む

 猪木武徳先生による本。内容は広範にわたるが,哲学と経済学との関連性がひとつの焦点である。近年の経済学では「自由」という言葉の意味が軽いものになりがちだが,そうあるべきではないことを思い起こさせる。上記の宇沢先生同様,経済学の目的を改めて考えさせられる。

 

8.『故事成語でわかる経済学のキーワード(中公新書)』 / 梶井厚志著, 中央公論新社, 2006.11, (中央図文庫・新書Ch331:K13)  ▼推薦文を読む

 梶井厚志先生による本。知っている故事成語もある一方で知らないものも多く,非常に勉強になること間違いなし。何より経済学的な解釈はおもしろく,プラスαで勉強になるところ多数と期待される。経済学を学ぶ人にはもちろん,経済学を知らない人にもぜひ読んでみてほしい一作。

 

9.『用心棒日月抄 改版 (新潮文庫)』 / 藤沢周平著, 新潮社, 2002.2, (中央図開架913.6:F961)  
10.『真田太平記 (新潮文庫)』 / 池波正太郎著, 新潮社, 2005.1, (中央図開架913.6:I26)  
11.『世に棲む日日 (文春文庫)』 / 司馬遼太郎著, 文芸春秋, 2003.3, (中央図開架913.6:S555)  
12.『死神の精度 (文春文庫)』 / 伊坂幸太郎著, 文藝春秋, 2008.2, (中央図開架913.6:I74)  
13.『空飛ぶタイヤ (実業之日本社文庫)』 / 池井戸潤著, 実業之日本社, 2016.1, (中央図開架913.6:I26)
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勉強ばかりでは気が滅入るのでたまには小説で気分転換を。

 

 

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